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宇都宮地方裁判所 昭和31年(タ)12号 判決

主文

被告と原告とを離婚する

被告は原告に対し栃木県芳賀郡市貝村大字竹内一八一番地家屋番号三一ノ四木造杉皮葺平家一棟十九坪二合五勺について財産分与による所有権移転登記手続をなし且金拾万円を支払うべし

原被告間の未成年の子長女細川芳江、長男細川貞一、次女細川葉子、四女細川和子の親権者を父の被告細川誠次郎と定める

原告其の余の請求は之を棄却する

訴訟費用は全部被告の負担とする

此の判決は金銭の支払の部分に限り原告に於て被告の為金三万円の担保を供託するときは仮りに之を執行することができる

事実

(省略)

理由

明に争わないので真正に成立したものと認め得る甲第一、二号証、証人細川進野村光男の各証言及原告本人尋問の結果(第一、二、三回)と本件口頭弁論の全趣旨とを綜合すれば原被告等は昭和十五年十一月頃事実上の婚姻を為して夫婦となり昭和十六年五月頃共に満州に赴いて被告は軍属として勤務し昭和十七年五月二十六日正式に婚姻の届出を為したものであるが大東亜戦争の終戦に際して被告が捕慮となつた為原被告等は離れ々々となつて昭和二十一年七月先づ被告に於て復員し其の後昭和二十二年二日原告も帰国したので被告の兄細川芳行方近くの他人の納屋を借り受けて同居し再び夫婦生活に入りて日雇や行商等の共稼ぎを為して働いた結果漸く昭和二三年四月主文掲記の建物(価格約十二万円)を新築したので之に移転し尚共稼ぎを続けながら被告は昭和二十五年二月から近在の烏山農業協同組合の食肉販売店の職員として雇われ月棒約六十円を得て勤務する傍ら東京方面に食肉等を販売して相当の利益を取得していた事実を認めることができる。

次に成立に争ない乙第一号証、明に争わないので真正に成立したものと認めらるゝ甲第四、五号証及同第八号証、証人野村長男及同森武夫の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二、三回)と本件口頭弁論の全趣旨とを綜合すれば被告は右販売店に勤務するうち同店のコロツケ上げ婦福島キンと情を通して昭和二十七年四月頃専売公社烏山出張所前の小林方二階を間借りして同女と同棲するようになつたので同年八月頃遂に右組合を退職して専ら食肉販売業を営み昭和二十九年六月頃肩書地に家賃一ケ月金千円の家屋を借り受けてオートバイ一台約十万円相当ミシン一台約二万二千円相当、自転車一台約一万五千円相当、絹布夜具二組約四万円相当及タンス柱時計腕時計茶ダンス風呂其の他家財道具一切約十万円相当の動産類を所有し一戸を構えて同女と同棲を続けて居るので原告に於て被告が従来同人の義兄村上一蔵名義で取扱つて来た家蓄の屠殺数と其の検査手数料及使用料等を調べた処昭和三十年一月から昭和三十一年四月迄の間に豚二一二頭其の料金合計五万八百八十円馬八六頭其の料金合計四万四百二十円牛二八頭其の料金一万四千五百六十円二頭其の料金合計六百四十円にして其の純益は相当の多額に上り月平均四万円の収入を得て居ることが判明した外財政豊の為前記動産を購入し更に自家使用の目的で右福島キンの父である福島虎男名義を利用して那須郡馬頭町大字馬頭八番地家屋番号第九番の四木造杉皮葺平屋一棟建坪十五坪を代金十五万円で買入れ同女との間には一子を儲けて相当の家庭生活を営んで居る事実をも確認したことが認められ右事実は、措信するに足るので被告の右所為は民法第七百七十条第一項第一号の不貞な行為にして離婚の事由となるものと謂わばねならない。

更に前記甲第一号証及び原告本人尋問の結果(第一、二、三回)と本件口頭弁論の全趣旨とを綜合すれば原告は何等の資産をも与えられず肩書地に於て原被告等間に生れた未成年の長女芳江(昭和十七年六月二十日生)同長男貞一(昭和十九年八月二十三日生)同二女葉子(昭和二十二年十一月三十日生)同四女和子(昭和二十六年一月二十四日生)の四人の子女と同居して日雇等を為して苦しい生活をして居るのに被告は原告の家庭を殆ど顧みず昭和二十七年四月から月約八千円位の金員を原告に仕送つて更に原告方に寄りつかなかつたが昭和三十一年三月分として五千円を与えたのを最後として以来仕送りをもしなかつたので原告が食糧等を要求した処被告は原告には食糧を与えない旨告げて断つたので原告は巳むなく生活の為一時佐藤庄太農方に身を寄せることとなつたのであるが昭和三十一年八月原告が子供の事を必配して尋ねた処被告もたま〓来訪し原告の姿を見るや原告に食糧を与えることを嫌つて持参した米を持ち帰つた為子供等が再び被告方え米を貰いに行つた事実を認めることができるのでこれ等の点からすれば被告の右所為は民法第七百七十条第一項第二号の悪意を以つて原告を遺棄したものとして離婚の事由にもなるものと謂わねばならない。然るに被告は原告に寧ろ婚姻を継続し難い重大な事由がある旨主張するけれども之を認むるに足る証拠が存在したいので之を採用することができない。

原被告等の婚姻中に於ける叙上の認定事実から考えれば被告が前示のように現在相当の資産を有して裕福な生活を送つて居られるのは被告の商才によることもさる事ながら原被告等が昭和十五年十一月結婚して以来十数年共稼ぎを続けながら原告に於て被告を扶け妻として数人の子女の育児、家事労働、日雇業等に服して努力して来た結果によるものと認めらるゝので原被告等が前記事由によつて離婚することとなれば原告の受ける精神上の苦痛も亦甚大なるを以つて被告は原告に対し自己所有資産の一部を分与する外相当額の金員を支払つて原告を慰藉すべき義務あるものと謂わねばならない。而して前示原被告等の資産信用関係、今後の生活収入状況その他諸般の事情を斟酌すれば被告は原告に対し右財産分与として主文掲記の建物を分与し且右慰藉料として金拾万円を支払うことが相当であるものと認める亦被告は原告に比し前示のような資産を有する外相当の生活能力及智能をも有するので前記未成年の子女に対する親権者は父である被告と定めるを相当と認める他に叙上の認定を覆すに足る証拠は存在しない。

仍て原告の本訴請求は右認定の限度に於て正当として之を認容し其の余は失当として之を棄却すべきものとなし訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条仮執行の宣言について同法第百九十六条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 広瀬賢三)

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